「お邪魔します」
リリィさんが扉を開け店に入ってくる。
あの日から数日たち、リリィさんは毎日のようにやってくるようになった。
もうすぐ記事の締め切りだという。
「いらっしゃい、今日は手が開いてるんだ。今のうちにやってしまおうか。」
「はい。」
「ビィ、お茶いれてくれるか?」
俺はいつもの席に座っているビィに声をかけた。
「わかりました。」
ビィはそういい奥へと入っていった。
リリィさんはいつものソファーに腰をおろし、取材の準備をしながら
「取材には関係ないことだけど、聞いていい?」
と言った。
「なに?」
俺は向かいの椅子に腰掛けながら聞き返した。
あの一件があってからうちとけたのか敬語からタメ口になってしまった俺たち。
「この店、お客さんが来ているとこと一度もみたことなんだけど・・」
「あーそうだね。それは、工場とかからの受注がほとんどだからだよ。生産用のロボットの修理が工場のほうから定期的にくるから。」
「なるほど・・ちょっと不思議だったの。」
納得といった表情で首を縦にふるリリィさん。
「だろうね。直接くるお客さんは少ないからね、大体近くの代理店みたいなとこからうちに流れてきたりするよ。ロボットの割に修理できる人間が少ないのが現状だし。」
「一気に普及したもんね。まだ技術者が間に合ってない状態なのね。」
「そうそう。どんどんロボットの性能は上がっていくし、こっちは大変だっていうのに。」
「ふふっ、そうね。」
そこへ奥からトレイと持ったビィが現れた。
「おまたせしました。」
そういって俺の前にコーヒーを置く。
いい香りが俺の鼻をくすぐる。
「ありがとう、ビィ。」
「どういたしまして。」
続いて、リリィさんの前に紅茶を置いた。
「どうぞ、今日はダージリンティです。」
「ありがとう・・」
リリィさんはすこしためらいながらそう言った。
「どういたしまして。」
ビィはリリィさんの顔を見つめそうつげると、また席へと戻って行った。
俺は思い切ってリリィさんに聞いてみた。
「ロボット嫌いなおった?」
リリィさんは俺の言葉を聞いて複雑な表情を浮かべた。
「そんな簡単には治らないわ。でも、なんだかビィは特別な気がするの。」
その言葉で俺はまたうれしくなった。そうしてこう続けた。
「ビィ、どんどん成長してる。どんどん感情豊かになってる。そんな気がするんだ。」
俺の言葉を聞きうなずくリリィさん。
そしてまじめな表情になり、こう俺に切り出した。
「・・・・ここからはビジネスの話。ビィのこと記事にしませんか?」
「ビィを?」
思わずビィのいる席にむかって視線を投げた。
ビィは俺の視線を感じ首をかしげる。
リリィさんもビィを見つめながら話を続けた。
「そうです、ビィと貴方のことを記事に。今の世の中使用人としてしかロボットを扱ってない。そんな中、貴方とビィは友達関係を築こうとしている。」
「・・・」
俺はリリィさんの真意が読み取れず、リリィさんの目を見つめた。
その目をそらさず、リリィさんはこう言った。
「そう。貴方とビィの関係ってほんとすごいと思うの、だから記事にしたいって思った。」
「そうかな?」
リリィさんは持っていたペンを机におき、手帳から写真を取り出した。
そこには幼い頃のリリィさんの父親らしき男の人、そして一体のお手伝いロボットが写っていた。
「白状すると・・私もロボットに子守りされて育ったの。親はがやってたのはロボット工場。だから、貴方の気持ちなんとなくわかるような気がする。」
「君も?」
「でも、結局そのロボットに工場つぶされて。父親は自分の存在価値はそんなもんだったのかってひどく落ち込んでたわ。」
「・・」
リリィさんは手帳に大事そうに写真をしまいながらこう続けた。
「でも、ほんとはロボットたちはなにも悪くないのよね。ほんとに悪いのはそれを使う人間。使い方をあやまっただけ。」
「そうだな・・・使い方を間違ってしまっているのかもしれない。」
リリィさんはうなずいて、そしてビィへと視線を送った。
「貴方たちみてて、昔の気持ち思い出したの。ロボットと一緒にだったころの記憶。たしかに、小さいころはロボットだ人間だって区別なんてしてなかった。
いつのまにか周りにながされていたけど、昔、私の友達はロボットだった。」
ビィが置いていったダージリンティーを一口のみ、微笑を浮かべるリリィ。
「だから、貴方たちみたいな関係がこれから浸透すれば、これからのロボットたちは幸せになれると思う。道具としてではなく。アイデンティティを持ったものとして。」
「そうだな。それが俺の夢なんだ」
「それが叶うようにお手伝いさせて欲しいの。私にも。」
そんな風にリリィさんが思ってくれるなんて、ほんと心強い仲間が出来たなと感じた。
「ありがとう、リリィさん。」
「リリィでいいわ。これから仕事のパートナーとして対等にお話しましょ?」
そういうとリリィさんは手を俺に差し出した。
俺はその手を握り返した。
「わかった。よろしくな。リリィ。」
「こちらこそ、ロット。」
そしてビィに向かってもこう言った。
「ビィもよろしくね。」
声に反応し、ビィがこちらに向かってくる。
「なんでしょう??」
そんなビィに向かってリリィが一言。
「お友達になりましょうってこと。」
そういって手を差し出した。
「はい、よろこんで。」
その手をビィがつかむ。
その手を俺も上から包み込んだ。そしてビィの目を見てこう告げた。
「よかったな。友達が増えて。」
「はい。」
そんな俺達をみて、リリィが微笑んだ。
そして、
「じゃあ、ビィ。こっちにきてロットと一緒に取材させてくれない?」
とペンとレコーダーをだし取材モードになった。
「そうだ、ビィもおいで。」
俺はビィの手を引き隣の椅子に座るように促した。
ビィが座る向かいに座っているリリィがレコーダーのスイッチを入れる。
「締め切りも近いのに原稿書き換えだわ!でもがんばって素敵な記事書いてみせる!」
「期待してるぜ。」
「よろしくおねがいします。リリィさん。」
そうして取材は始まった。
それから数日リリィはビィのことを念入りに取材した。
結局バグの原因はわからないままなので、”感情のあるロボット”という点は伏せてただ純粋に俺達の関係にスポットをあてた原稿にするらしい。
興味本位で取材がこないよう俺の名前の店の場所も公表しないことになった。
ガスは不服そうな顔をしていたが、最終的には了承してくれた。
「感情のあるロボットを作ろうとする研究者ロットはロボットに愛情をもって接している。」
「ロボットはものではなく、私達の生活をサポートしてくれる大事な仲間だ。」
これがリリィの書いた原稿の一部。
これが世にでて、読んだ人たちが少しでもなにか感じてくれればいい。
その願いは俺もリリィのそしてビィも一緒だった。
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2006/03/21