いつものように目覚ましがリリリ、リリリと高い音を鳴らし俺を攻め立てる。
俺は暖かい布団の誘惑を振り切りペットから抜け出し、朝の準備をする。
そして、下に降りビィの電源を入れる。
最近できた日課である。

「おはよう、ビィ。」

そういうと蒼い目が開き俺を映す。

「おはようございます。ロット。」

その後は二人で開店準備。
掃除をしているとガスが上から降りてきた。

「おはようさん。」
「おはよ。」
「おはようございます。ガス。」

ガスはすぐに奥の部屋へひっこんでしまった。

「ったく。たまには手伝えよな。」

俺が呟くと、奥から

「なんだって!!」

とガスの声。

「いや・・なんでもない。」

・・・どれだけ耳がいいんだと今度は心の中で呟く。
掃除が終わると店の札をOPENにしてこれで開店。
受付と伝票の整理はビィに任せて、俺は奥でガスとロボットの修理に取り掛かる。
受付の計算もビィにがやってくれるようになって、俺は午前中からガスのもとで本格的に修行をはじめることができるようになったんだ。
ガスと壊れたロボットの部品を交換していると、店のドアが開く音が聞こえた。
ビィが接客する声と同時にリリィさんの声が聞こえた。
まずい。あの人はロボット嫌い・・・急いでいかないと。

「師匠、すまねぇがちょっといってくるわ。」
「おう、しっかりな。」

俺はガスに断りを入れ、店へと出て行ってた。お金が絡むとガスは優しい・・・・

「いらっしゃいませ。どういったご用件ですか?」

店へ出るとビィが接客モードでリリィさんに話し掛けていた。

「・・・」

リリィさんはなにこのロボットとでもいいたげな目で見つめていた。
はっきりいってこわい。

「すみません。リリィさん。」
「いえ。」

そう答えるリリィさんの目はやっぱり冷たい。

「ビィ!その人はお客さんじゃないんだ。だから接客はいいよ。お茶いれてきてくれるか?」

そういうとビィはリリィさんに向かって

「失礼いたしました、こちらにおかけになってお待ちください。すぐにお茶を持ってまいります。」

と言い残し奥へ入っていった。

「どうぞ、座ってください。」

リリィさんにソファーに座るように促し、俺も前と同じ向かいの椅子に座る。
沈黙・・・・やっぱり怒っているのだろうか。

「すみません、最近忙しくて・・・」

俺は勇気をだして話しを切り出した。
なんで俺が気を使ってんだ??おかしくない?

「こちらこそお忙しいところすみません。」
「いえ、受けるといった以上これも仕事ですからね。で、なにからはじめましょうか?」
「はい、少し今からインタビューさせていただいて。それからこのお店見学させていただいてよろしいですか?」
「はい、わかりました。ガス!・・じゃなかった師匠!いいよな?」

俺は奥にいるガスに声をかけた。
すると奥から

「おう、どんどん宣伝してもらえ」

とガスの声。

「だから俺の取材だって・・」

俺が呟くとリリィさんが一言

「いえ、お店の宣伝もさせていただきますよ。取材させていただくんですから」
「そりゃ助かるね。ありがとよ」

奥からガスの声。聞こえてるんだ・・・すげー

「仕事ですから。それでは早速質問よろしいですか?」

そういってリリィさんは黒いかばんからレゴーダーやメモを取り出した。

俺はなんだか緊張してきてしまった。
取材なんか考えて見ればはじめてだし・・・

「どうぞ、・・」

俺が緊張してがちがちになっていると、奥からビィがトレイを持ってこちらに歩いてきた。

「お待たせいたしました。」

そういうとテーブルにコーヒーを2つとクッキーを置く。

「クッキーか、気が利くなビィ。」
「ありがとうございます。ロットがお好きだとおっしゃっていたので買っておきました。」

そんなこと覚えてるなんて・・・
ビィの電脳ってほんとどうなってんだ?

「ありがとう。」
「・・・どういたしまして。では失礼します。」

そういうとビィは受付の作業に戻るべくカウンターへ戻って行った。

「・・・よろしいですか?」
「あっ!すみません。どうぞ。」

また、考え込んでいたようだ・・・反省。
リリィさんがレコーダーのスイッチを入れ、話し出す。

「まずは・・あのロボットはロットさんがお作りになったんですか?」
「ビィですか?あれはここだけの話拾ったんです。」
「拾った?」

リリィさんが顔を上げて聞き返した。

「そう。ゴミ捨て場に捨ててあってそれを拾ってきたんです。最新型だったしもったいないでしょ?」
「・・・そうですね。」

あまり感情のこもっていない声でそう返すリリィさん。
ちょっと怖い。
俺はまくし立てるように言葉をつづけた。

「めずらしいロボットだったんで、ここにおいて少し研究してみる予定なんです。でも拾いものなんでこれは内緒で・・・」
「わかりました。」

リリィさんはそう一言だけいうと、次の質問にうつった。

「それでは次の質問、そもそもなぜ心を持つロボットをお作りになろうと思ったのでしょう?」
「なんでかな?それが俺にとって普通だからかな?」
「普通?」

また顔を上げて聞き返すリリィさん。
だから怖いって・・・

「俺、親がいないんです。小さいころに死んじまって、親父の友人だった師匠が俺を引き取って育ててくれたんです。」
「そうなんですか。」
「そう。それで師匠は見ての通り仕事一筋で嫁さんもらってないんで、俺の面倒を自分で作ったロボットに見させてたんですね。」

リリィさんは持ってきた資料を眺めながら、また俺に質問をした。

「最近では普通ですが、ロットさんがお生まれになったころはまたロボットが普及する前ですよね。」
「そうですね。でも、師匠はロボットのプロでですから小さい俺の相手させるくらいのロボットなら作れたみたいですよ。今は修理専門みたいになってますけど。」
「それで、小さいころからロボットと接してきたからロボットに興味を持ったと。」

なんとなく納得してくれたのか、うなずくリリィさんをみて俺はほっとした。
なんだか尋問されてる気分だし・・・

「持たざるをえないですからね。こんなとこで生活してると。ロボットに育てられたようなもんだし。小さいころはロボットと人間の区別なんてなかったですし。」
「区別ですか?」
「そう、まわりロボットだらけだし。しゃべるし、動くしなにが違うんだろうって小さいころは思ってました。で、少し大きくなると単調な反応しか返さないロボットに違和感を感じて。俺は成長するのに、どうしてロボットは成長しないんだろうって。」

リリィさんは考えるようにまゆをひそめ、こういった。

「今のロボットは学習システムを導入しています。それとは違うのですか?」

学習システム。それはたしかにロボットを成長させることができる・・・表面上は。
でも俺が言いたいのはそういうことじゃない。

「そういった表面上のことじゃなくて、もっと内面的な成長というか・・・」
「内面ですか?ロボットに?」
「そう、こころですよ。今のロボットは命令通りには動きます。学習システムにより、一度したことは覚えますし。ある程度の応用もききます。でもそれだけです。自分で考えて、自主的に行動することはない。」

そう、なのにどうしてビィは俺に「がんばって」なんていったんだ?
前の主人が教えるわけないし、第一プログラムは消去したはずだ。
だったらなぜ・・・
俺が考えこんでいると、リリィさんがこう続けた。

「つまりロボットに感情をもたせて、自主的に考えて行動するようにしたいとそういうことですか?」
「そうですね、自分で考えて、自分で行動するロボットが作りたいんです。こちら側が要求しなくても、気持ちを汲み取って行動できる、コミュニケーションがとれるようなそんなロボットが。」

リリィさんの顔を見ると、なぜだか怒っているようなそんな表情を浮かべていた。

「・・・なぜそんなロボットが必要なんですか?」

リリィさんが、メモをとっていた手をとめ顔を上げた。

「なぜって?・・・」

俺が言葉を続けようとしたそのとき、リリィさんは俺の目をまっすぐ見つめまくし立てた。

「ロボットなんか普及したせいで、人間は堕落してしまったように思います。なにもしなくてもロボットがなんでもかんでもやってしまって・・今はロボットの性能上人間にしか出来ない仕事がたくさんあります。でも近い未来、貴方のような研究者がもっと優秀なロボットを発明していく。そうすると人間の存在価値はどこへいってしまうんですか!」

喋ってるうちに興奮してきたのかリリィさんのペンを持つ手が震えていた。

「リリィさん??」
「・・・すみません、少し私情が入りました。今日はインタビューはこのくらいで・・お店を拝見させていただいていですか?」

リリィさんは何でもなかったように話をつづけるので、俺も気にしないことにした。
ロボットが嫌いな人くらいこの世の中まだまだいるもんだしな。
そして奥にいるガスに声をかける。

「師匠!店を案内してくれだとさ。店のことは師匠の方がいいだろ。」

奥からガスの声。

「おう。じゃぁ、リリィさんまずは奥から。こちらへ来てくださいますか?」
「はい」

リリィさんはレコーダーをとめ、かばんを肩にかけ奥へと消えて行った。
俺は詰まっていた息を吐き出す。
ふぅ。なんだか疲れた。
でも、不思議な人だな。なんでそんなにロボットが嫌いなんだろう・・・

「ロット?」

突然ビィが話し掛けてきた。
俺最近ぼーっとしすぎかな。気をつけよ。

「ん?なんだ?」
「お茶、片付けてよろしいですか?」
「おう、ありがとう。クッキーおいしかったよ」
「・・・どういたしまして。」

テーブルに置かれたカップやお皿をトレイに乗せると、ビィは手を止めて俺をみた。

「・・ロット一つ質問してよろしいですか?」

ビィは少し困った顔をしながら言った。

「どうした?」
「ロットはどうして私にありがとうというのですか?」

どうしてって・・・当たり前のことじゃないのか?

「なんでって、自分のために動いてもらったら普通お礼をいうだろ?」

そういうとビィは俺の目を見つめてこう言った。

「でも、私はロボットです。ご主人さまのために動くのは当たり前のことでは?」

またそれだ・・・
人と人とのつながりと、人とロボットとのつながりとなぜそんなに違うのだろう。

「ロボットだろうとなんだろうと俺とお前は友達なの。だからお礼をいうのは当たり前。」

ビィは不思議そうに首をかしげた。

「ロットは変わっていますね。昔のご主人様はそんなこと一言も言わなかった。」
「よく言われるよ。」
「つまらないこと聞いてすみませんでした。それでは片付けてまいります。」
「いや、いいんだ。片付けよろしくな。」
「はい」

そういうとビィはトレイを持ち奥へと入っていった。
ビィとの会話を終え、俺は思っていた。
やっぱりビィって変わった頭脳回路持ってんだな。なんだか会話してるみたいだ・・・・ ちゃんと電脳を解析してみないとな。
そう心に決め、俺は仕事に戻った。





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2005/11/01

やっぱりあんまり話進んでないじゃん・・・すみません。
次回はちょっとは進むかも。

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