夕暮れの空



貴方の心が見えなかったの

いいえ 初めから見えなかったんじゃない

見えなくなってしまったの 霧がかかったみたいに・・






「さようなら」

そういって私は貴方の部屋のトビラをしめた。
と同時に私の心のトビラも閉めた、貴方がもう入らないように。
どうしてこうなったのか私にもわからない。
ただ、貴方と私の間にあった溝か急に谷のように深く、そして暗い影を落としていた。
それに私は気づいてしまった。

溝は最初からあった。
それはほんの些細な、子供が跨いで渡れるくらいのそんな溝だった。
だから気にもとめなかった。
でも、その溝はどんどん深くなり飛べなくはないけど飛ぶのは怖いくらいの暗い深い谷となった。
それを私は必死で飛んでいた。貴方が手を差し出して私を受け止めてくれるって信じてたから。

でも・・

その期待は見事に打ち砕かれた。
飛んだ先には貴方の手どころが、貴方の姿さえなくなっていった。
貴方のすこし右、貴方の手が届く範囲だけど正面じゃないそんなところへ飛んでしまう私は。
もう貴方のもとへは戻れない、そう思った。

ふと現実に意識を戻すと、目の前には夕焼けが広がり、見慣れた公園にたどりついていた。
貴方といつも散歩にきていたコースを無意識にたどっていたのだ気づくと閉めたはずの心のトビラから貴方という風が私の心を掠めた。

落ち着こうと辺りを見渡すと、みなれたベンチが視界にうつった。

貴方とよく座っていたベンチに、貴方と話したたわいもない言葉たちが所在なさげに積もっているそんな気がして目をそらした。
その瞬間、ぽたっと冷たい粒が私の眼から流れた。
一瞬理解出来ずにぼんやり空を見つめていたら、夕焼けに赤く染まる空がぼやけにじんでいった。

そう、ベンチに積もったたわいもない言葉たちが、なにより私たちの愛を示していた。
なにげない言葉の端々に昔は貴方の心を、愛を、感じていたのに、いつからそれを忘れてしまったのだろう?
いつから、直接的なことでしか愛を語れなくなってしまったんだろう?




心が見えなくなったわけでも 霧がかかったわけでもなかった

私の眼が盲目だっただけだったと今気づいた






* * * * * * * * * * * * *

2005/07/07

「夕闇の風」のその後


←詩的散文に戻る