夕闇の風
君を愛していたんだ
それは君には伝わらなかったようだけどね
僕の目の前にいる君は
どこか悲しそうで それでいて強い瞳をしていた
「さようなら」
そういうと君は僕に背中を向けトビラを出て行った。
君が出て行ったトビラを、日の光が赤く染める。
まるで君の気持ちを写すかのように、赤く、そして悲しく染めていた。
どうしてこうなったのか僕はトビラを見つめながらぼんやりと考えてみた。
君は僕の心が見えないと、そういって泣いたね。
でも、そんな君に僕は心なんて見えるもんじゃないとそう言った。
だってそうだろ?心なんて誰にも見えやしないのに、どうして君にだけ僕の心が見えるなんてことがあるだろうか?
それは君にだってわかっていたはずじゃないのか。
僕は君の心なんて見えやしなかったけど、君を愛していたよ。
君が僕を見る視線、触れる手、なぜる指、絡まる身体。
そういった君を作る要素から、僕は君の心を感じたんだ。
君は僕の心が見えないといったけど、君は見ようとしてくれていたのかい?
いくらといかけても答えてくれる君はもういない。
部屋を見渡すと、君が残していった君のかけらがあちらこちらに散らばっていた。
君のために買ったマグカップ、君が好きな雑誌、君の香りが残るこの部屋・・・
すべてが僕を否定しているようなそんな錯覚を覚える。
僕は一人ここに残されどうすることも出来ないでいる。
そう君を引き止めることも、君を追いかけることも。
たった一言で、僕たちが過ごした長い時間が消え去った。
いや、そうではない・・
長い間積み重ねた時間は、それとは反比例して磨り減って、鈍感に鈍った心では感じられないくらい少しずつ君と僕との溝を深めていったのだろう。
それに僕が気づかなかった、ただそれだけのことだ。
敏感な君はそれに気づいてしまったんだね。
それとも気づいたフリして君が僕とはすこし右のずれた空間に目をそらしはじめたのか、それは僕にもそして君にだってわからないことだろう。
僕の思考が暴走をはじめたのか、考えは宙に浮きそしてちらばり、また固まる。
なにをはじめに考えていたんだろう。
そう、君が僕から去ったその事実を受け止めようとしていたようなそんな気がする。
赤かったドアは、もう黒く夜を告げていた。
僕はようやく重い腰を上げ、君の香りが残るこの部屋から外へ出た。
でも、それは君を追いかけるためではなく、ただ暗い夜に溶けてしまいたかっただけ。
そして溶けた僕のかけらが君の近くの空気とまざり、僕の愛を少しでも伝えてくれないかな。
そんなくだらないことを思ったんだ。
君を愛していたんだ
不器用な僕はなかなか伝えられなかったけど
君の目に映る僕は
どんな顔で君をみつめていたの?
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2005/07/07
※「夕暮れの空」へつづく