ごめんの意味




「ごめん」

そういい残しあいつの部屋を飛び出した

自分がなにをしたのかわからなかった





入学式に隣に座ったのが縁で仲良くなったあいつ。
でも、それがわざとだとはあいつは気づいていないはずだ。
はじめて見たとき笑顔が印象的な奴だと思った。
だから左の列には高校からの友達が座っていたのにも関わらず右の列、あいつの隣に座ったんだ。
それからというもの機会があるたびあいつのそばにまとわりつき、くだらないことであいつを笑わせた。
その笑顔が好きだったから。

でもあいつはにぶいのか全然気がつく気配はなかった。
周りにいる友達達は

「お前ら付き合ってるんじゃねぇの?」

っていうくらいなのに、あいつは全然俺のことなんて相手にしてないって感じで。
悔しいから今日はあいつのうちに押しかけることにした。
話の流れってやつをうまくつかって。もちろん計算だけど。



「そういえば、貸してもらってた漫画続きでたよな。」
「うん。出た出た。」
「貸してや。あれ続き気になって気になって仕方ないねん。」
「あーあれな。あの先はなぁ・・・・」
「ちょっと!!喋んなや!」
「主人公がな・・・」
「ちょ!ちょっと、こら!そんなことゆうなら今からとりに行くぞ!」
「えっ?・・・・」

漫画の話なんかは口実。ほんとは二人っきりになりたかっただけ。
いつもいつも友達がまわりにいたら恥ずかしくてつい減らず口をたたいてしまう。
これでは進展するものも進展しないそう俺は思ったのだ。

「なんか用事あんの?」

聞いてはみたが実は調査済みだ。今日はバイトもないはず。

「・・・ないけど・・」

ほら。ならここは押すべし!!

「ほな、ええやん。行こうや。家こっから近いやろ?」
「まぁ・・・」
「何警戒してんねん。なんもせーへんわー」
「な・・なにいってんねん!そんなんあるわけないやろ!」
「まぁな、相手お前やな。」
「・・・・そうやんな。」

・・・また減らず口叩いてしまった。
でもそんな全力で否定しなくても・・・

「それじゃ。また明日ね。」

気が付くと最寄駅に到着していた。
俺は友達に目で合図し、ここに残るからと告げた。
友達も目で「がんばれよ。」ってメッセージ。
その後みんなを引き連れて、自然に改札をくぐっていった。
後でみんなにバレたらまた冷やかされるな・・・

「さて、いくか。」

このまま流れでいくしかない!気合を一つ入れ歩き出す俺。
そこにお前が水を指す一言・・・・

「・・・・はりきって歩くんはいいけど、あんた私のうち知ってんの?」
「知らん!」
「んじゃ、先頭を歩くな!!」
「はいはい。先頭はちびっこって決まってるもんな。ほれ。背の順に並べ〜」
「ちびっこいうな。そんなちっちゃないわ。あんたがでかいんやろ!」
「150台はちびっこじゃ。」
「女は小さいほうがかわいいんです。」
「はいはい。お嬢ちゃん、かわいいですね。」
「馬鹿にすんのもたいがいにしーや。漫画貸さんで・・・・」
「・・・・すんませんでした。」

そんなくだらない話をしてあいつの部屋への道を二人で歩く。
二人っきりがうれしくて道なんか知らないのに張り切って歩いてしまったのは内緒だ。
ほどなくしてあいつの住んでるマンションが見えてきた。

「あっこやで。住んでるのん。」
「へぇー思ったより綺麗やん。」
「でしょ。数年前にマンションごとリフォームしてんて。」
「俺のとこなんか壁紙日に焼けて茶色いし、エアコンつけたらなんか匂うねん。」
「それ最悪やな。」
「ほんまやで。俺もここにしときゃよかったかな。」

言った後、一緒に暮らそうっていったみたいで少し照れたのはまたまた内緒だ。

マンションのドアを通り、部屋の前。
あいつは漫画をとりに行くと部屋の中へ消えた。

「なんだ・・・やっぱいれてくれないか・・」

ちょっと残念だがしかたがない。無理やりきたようなもんだしな。
だけど、部屋の中をのぞくくらいいいだろ。男の影がないかチェックしなければ・・
そんなことを思いながら少しドアを開け、部屋の中をのぞいた。

「結構綺麗にしてるんやな。」

玄関にはあいつのスニーカーとサンダル。
部屋は思っていたより女らしい部屋だった。
ベットには薄い黄色のチェックのカバー。カーテンはオレンジ。
女の部屋ってこういうものなんだなと観察していると

「ちょ!勝手に何みてんのん。」

とあいつの声。

「ええやん、へるもんやないし。」
「そうか・・・ってそういう問題やない!レディーの部屋やで。」
「誰がレディーじゃ。このちびっこが。」
「うるさい!これも持ってはよ帰れ!」

あいつの顔が突然悲しそうにゆがんだ。
まずい。そう思ったときにはもう遅かった。
あいつはドアを閉めようと手をかけていた。

「ごめんて。冗談やん。」
「今ごろあやまっても遅いわ、帰れ。」
「ごめんて。」
「さようなら、また明日。」
「ごめん。」
「そう思うなら帰ってください。」

こいつが敬語使い出したらまずい証拠。
困ったな。どうしようと考えていたら、目の前でドアが閉まりそうになっていた。
ちょっとまった!!このまま帰るわけにはいかない。
そう思うと同時に手が出ていた。

バン!

「痛!」

俺の手はみごとにドアの間にはさまれてしまった。

「ごめん。大丈夫!!」

あいつが顔色変えて飛んできた。

「大丈夫。ちょっとはさんだだけやし。」

そういう俺の指は爪が割れて血が滲んでいた。

「血、出てるやん!消毒せな!」
「大丈夫やってこのくらい。」
「あがって、私のせいやし・・・手当てくらいするわ。」
「えーって。俺も悪かったし。」
「いや。私が無理やり閉めたんが悪いし。」
「そんなことないって、俺がふざけてドア引っ張ってたのも悪かったし。」
「・・・・・きりないからとりあえずあがらん?」
「・・・・・そうやな。」

なにはともあれ、あいつの部屋に上がることが出来てちょっとうれしかった。
あいつはばたばたと部屋を走り回りなにかを探しているようだ。
その間に俺は部屋を観察することにした。
・・・とりあえずここには男の影はなし。
周りばっかり見ていたら、指の血が指からこぼれそうになっていたので手じかにあったティシュであわてて指を押えた。

「血、出てる?」
「そうでもないな。割れてるだけてはがれてないし。」
「・・・リアルに痛そうやから解説はやめて・・」
「すまん・・・」

そういうとあいつは持ってきた消毒液で消毒し、ガーゼを巻いてとめてくれた。
消毒液が染みたが、あいつが俺より痛そうな顔をするのでこらえた。

「一応、これで大丈夫ちゃう?」
「なんかすごいことなってんな。」

俺の指はガーゼのせいで大きさが2倍くらいになっていた。

「しゃーないやん。ってかごめん。」
「・・いいって。」

あいつがほんとにすまなそうな顔をするから、なんだか俺が悪いことした気分になってきた。

「お茶でも入れようか?」
「お気遣いなく・・・」
「・・・そう?」

気を使われるのが嫌で断ったけど、そのせいで空気が微妙になってしまった。

「・・・」
「・・・」

あいつは使ったものを片付けながら怒ったように床を見つめていた。
怒らせたい訳じゃないんだけどな。今日はどうもうまくいかない。
このままいても空気が悪くなるだけだと思った俺は今日はおとなしく帰ることにした。

「俺・・ほんなら帰るわ。」
「あっ。そう?」
「おー押しかけて悪かったな。」
「そんなことないよ、私こそごめん。」

「ほんなら、また明日。」
「うん。」

あいつがほっとした顔になったのにちょっと傷つきながら玄関へ行き靴をはこうとした。

「痛!」

あいつのことばっかり考えてて指を怪我していることなどすっかり忘れていた俺は声をあげた。
怪我している指で靴を履こうとしてしまったのだ。
その声を聞き、あいつが駆け寄ってきて俺の手を取った。

「あほ。つめ割れてんねんから痛いに決まってるやろ!」

心配してくれるのはうれしいけどあほって・・・と心で呟いていると、あいつが勢いよく顔を上げた。
その顔はちょっと涙ぐんでいるようにみえた。
俺は思わずその顔に見とれてしまった。

笑顔もいいけど、涙ぐんでるものいいかも・・・

その涙をぬぐってやりたくて、あいつの頬に手を伸ばした。
あいつの肌は思っていたよりやわらかくて、あたたかかった。
頬に手をあてても動かない、それをいいことに頬をすべらせ顎に手をかけた。
それでもあいつは動かない。首を傾け顔を近づけてみた。
それでもあいつは動かない。そう思っているうちに唇の感触がした。

・・・・キス?俺・・今、キスした?

よくわからないまま

「ごめん」

と言い残しそこから逃げた。




部屋を飛び出し、きた道を全力で走った。
なぜ走っているのかはわからない。
ただ頭の中でぐるぐると疑問符が回る。

俺なんでキスしたんだ。

ぽつ、肩に頭に冷たいしずくが落ちてきた。
切れた息を押え、走る足を止める。
雨は激しく降ることはなく、まるで俺の火照った頭を覚まそうとしているようにしとしとと降り続ける。
降り続ける雨の中、俺は一人立ち止まり考えていた。
俺はなぜ逃げてきたのだろう。あいつを一人部屋に残して。
俺は大切なことを伝え忘れているんじゃないのか?
好きだって。伝えるのは今なんじゃないのか?
そんな風に思えてきた。

くるりと方向転換をして、あいつの部屋へと走り出す。
もしかしたら雨はあいつの涙なのかもしれない。
きっと今ごろあいつは部屋で一人泣いている。
キスの意味を勘違いして。

そう、キスしたのはあいつが好きだからだ。
俺を心配するあいつが可愛いかったからだ。

「ごめん」

なんて言葉を残して去ってしまえば、キスの意味はなくなってしまう。
俺が言ったごめんは「順番間違えてごめん」のごめん。
キスする前にあいつの伝えなくちゃいけないことがあったんだ。
ちゃんと好きだって今伝えに行くから。
その後、あいつがいいならもう一回キスをしよう。

好きという意味をこめたキスをもう一度。





「ごめん」

気づくのが遅くなって

あのときのキスの意味を

これから君に伝えにいくよ





* * * * * * * * * * * * *

2005/09/22

「キスの意味」サイド違い

書いてみました、サイド違い+続き。はじめてのことだったので難しかった・・
続きなんてちょっとじゃんという突っ込みはない方向で(笑)
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