キスの意味
「ごめん」
ゆっくりと私の唇から離れていった貴方の唇はそう呟いた
きっかけは些細なこと。
大学の帰り道、数人の友人と駅に向かって歩いていた。
「そういえば、貸してもらってた漫画続きでたよな。」
「うん。出た出た。」
「貸してや。あれ続き気になって気になって仕方ないねん。」
「あーあれな。あの先はなぁ・・・・」
「ちょっと!!喋んなや!」
「主人公がな・・・」
「ちょ!ちょっと、こら!そんなことゆうなら今からとりに行くぞ!」
「えっ?・・・・」
私は今向かっている学校の最寄駅から徒歩10分ほどのところにあるマンションで一人暮らしをしている。
「なんか用事あんの?」
「・・・ないけど・・」
「ほな、ええやん。行こうや。家こっから近いやろ?」
「まぁ・・・」
「何警戒してんねん。なんもせーへんわー」
「な・・なにいってんねん!そんなんあるわけないやろ!」
「まぁな、相手お前やな。」
「・・・・そうやんな。」
この失礼なことをいっている相手が実は私の思い人。
大学の入学式で隣に座って以来、なにかと私につきまとう男である。
ノートを借りに来たり、こうやって漫画を借りに来たり・・・なんだかいいように使われているように思うけど。
でも内気な性格の私がこうやって大学で友達を作れたのは、彼の人懐っこい人柄によるところが大きい。
彼の周りには常に人が集まる。
その輪の中で私は友人関係を築いていったのである。
彼は誰にでも優しくて、誰にでもこんな調子なので私はこの男に振り回されてばかりの毎日。
「それじゃ。また明日ね。」
気が付くと最寄駅に到着していた。
数人の友人達はそれぞれ別れの挨拶を告げ駅へと入っていく。
心ここにあらずの状態で挨拶をする。
そして気が付くとそこには私と貴方しか残っていなかった。
人数が多い団体の分、こういうとき誰がぬけてもさして気にならないようだ。
「さて、いくか。」
そう呟くと歩き出す貴方。
「・・・・はりきって歩くんはいいけど、あんた私のうち知ってんの?」
「知らん!」
「んじゃ、先頭を歩くな!!」
「はいはい。先頭はちびっこって決まってるもんな。ほれ。背の順に並べ〜」
「ちびっこいうな。そんなちっちゃないわ。あんたがでかいんやろ!」
「150台はちびっこじゃ。」
「女は小さいほうがかわいいんです。」
「はいはい。お嬢ちゃん、かわいいですね。」
「馬鹿にすんのもたいがいにしーや。漫画貸さんで・・・・」
「・・・・すんませんでした。」
そんなくだらない会話をしながらいつもの帰り道を貴方と歩く・・・なんかくすぐったい感じ。
ほどなくして私の住むマンションが見えた。
「あっこやで。住んでるのん。」
「へぇー思ったより綺麗やん。」
「でしょ。数年前にマンションごとリフォームしてんて。」
「俺のとこなんか壁紙日に焼けて茶色いし、エアコンつけたらなんか匂うねん。」
「それ最悪やな。」
「ほんまやで。俺もここにしときゃよかったかな。」
そんな些細なひとことでドキッとしてしまう。
別に一緒に暮らそうなんていわれたわけでもないのに。
マンションのトビラを開け、階段を上る。
3階の角、ここが私の部屋だ。
「ちょー待ってて。漫画とってくるし。」
「おーわかった。」
貴方を残し、一人で部屋へ入る。
かばんを置き、部屋を見渡す。
「昨日掃除しといてよかった・・・って別に上がるっていってないやん。」
一人突っ込みもほどほどに目当てのものを探す。
ベットの脇に目当ての漫画が置いてあった。
それを手にとり玄関に戻ろうと振り返ると、なせが貴方と目が合った。
「結構綺麗にしてるんやな。」
貴方はドアを開け、玄関の外から部屋の様子をうかがっていた。
「ちょ!勝手に何みてんのん。」
「ええやん、へるもんやないし。」
「そうか・・・ってそういう問題やない!レディーの部屋やで。」
「誰がレディーじゃ。このちびっこが。」
「うるさい!これも持ってはよ帰れ!」
お前なんて恋愛対象外だ。遠まわしにそういわれている気がしてきた。
期待した私が馬鹿みたい。だんだん腹が立ってきて、持っていた本を投げつけドアを閉めようと試みた。
「ごめんて。冗談やん。」
「今ごろあやまっても遅いわ、帰れ。」
「ごめんて。」
「さようなら、また明日。」
「ごめん。」
「そう思うなら帰ってください。」
私が敬語使い出したら要注意。本気で怒っているサインである。
冷たく言い放ちドアを無理やり閉めようとした。
バン
「痛!」
貴方の声が響き、私は我に返った。
どうやらドアに指をはさんでしまったらしい。
「ごめん。大丈夫!!」
怒っていたのも忘れ貴方の指を取る。
「大丈夫。ちょっとはさんだだけやし。」
そういう貴方のつめは割れ、血が滲んでいた。
「血、出てるやん!消毒せな!」
「大丈夫やってこのくらい。」
「あがって、私のせいやし・・・手当てくらいするわ。」
「えーって。俺も悪かったし。」
「いや。私が無理やり閉めたんが悪いし。」
「そんなことないって、俺がふざけてドア引っ張ってたのも悪かったし。」
「・・・・・きりないからとりあえずあがらん?」
「・・・・・そうやな。」
貴方を部屋に通し、私は手当てするものを探す。
一人暮らしなので救急箱とかそんな上等なものはもちろんない。
「ガーゼとばんそうこうくらいはあるはず・・・あとは・・マキロン??」
部屋をバタバタと走り回り必要なものをそろえ貴方のもとへ。
貴方は近くにあったティシュで血を押えていた。
「血、出てる?」
「そうでもないな。割れてるだけてはがれてないし。」
「・・・リアルに痛そうやから解説はやめて・・」
「すまん・・・」
お互いいつもの調子が出ない。
無言のまま消毒し、ガーゼを巻く。
消毒の時、ちょっと痛そうな顔をするのでかわいそうになってきた。
「一応、これで大丈夫ちゃう?」
「なんかすごいことなってんな。」
ガーゼでぐるぐる巻きになって指を見つめ貴方はいう。
「しゃーないやん。ってかごめん。」
「・・いいって。」
また、微妙な空気。
「お茶でも入れようか?」
「お気遣いなく・・・」
「・・・そう?」
ますます微妙な空気。
とりあえず使ったものを片付けながら様子をうかがう。
「・・・」
「・・・」
お互い黙ったまま、数分が過ぎた。
「俺・・ほんなら帰るわ。」
「あっ。そう?」
「おー押しかけて悪かったな。」
「そんなことないよ、私こそごめん。」
帰るといいだした貴方をみて、ほっとして、でもさみしくなった。
「ほんなら、また明日。」
「うん。」
玄関で靴を履こうとした貴方は
「痛!」
また声をあげた。
私は駆け寄り、貴方の手をつかんだ。
「あほ。つめ割れてんねんから痛いに決まってるやろ!」
そうどなり顔を上げると、いままでにないくらい近い距離に貴方の顔があった。
貴方はちょっとびっくりした顔。でもそのあと、私をじっと見つめた。
私はその瞳から眼が離せず、手も離せず、指の一本すら動かせない。
すると貴方のつかんでいないほうの腕が、私の頬をすべり顎を持ち上げた。
貴方の顔がだんだん近づいてきて、視界がぼやけたあと唇になにかがあたった。
キス?
呆然と立ち尽くす私に一言
「ごめん。」
と告げ。貴方は部屋を飛び出して行った。
もちろん私には、貴方の表情をみる余裕なんてこれっぽっちだってなかった。
「ごめん」
その言葉の意味を私はそれからずっと探している
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2005/09/15
続き書くかも・・・・もしかしたらサイド違いも・・・読みたい?(笑)
9/23 サイド違い「ごめんの意味」UP