俺は近くの店で遠くの町の宿を手配し、そこまでの切符を手配した。
町は行く先、行く先「ロボット」の記事のことで大騒ぎだ。
まるでめずらしい動物でも見つけたかのように好奇の目でココロのあるロボットの存在を見ていた。
「そんなもん。いるはずがない。ココロというのは人間に与えられたすぐれたものなんだ。」
「ロボットにココロなんて、怖い。」
「きっとそのうちロボットが勝手に動き出して、人間を襲うんだ。そんなロボット壊してしまえ。」
様々な声が耳に入る。
そのどれもが、ビィの存在を否定するものだった。
「どうして・・・ロボットがココロをもっちゃいけないんだ。」
ビィのことを思うと胸が痛んだ。
みんな、ビィのことなんて知りもしないのに「ココロのあるロボット」という面からしかみようとしない。
ビィがなにを感じ、どう思っているのかなんて全然考えもしない。
ロボットにだったらなにをしたっていいのか?
結局自分達の都合のいい道具としてしかみていないんだ・・・
上辺だけでしか物事を見ようとしない世間が、とても腹立たしかった。
聞こえる声に耳をふさぎ、最低限の旅の用意だけ整え店へ戻るときふと目に付いたネックレスを一つ手に取り購入した。
ビィの目のように青い石の入ったネックレス。
それは俺がはじめて送るビィへのプレゼントだった。
店の裏からこっそりと戻ると、店の電気は消え真っ暗だった。
まさか、一人でどこかへ行ってしまったんじゃ・・・
「ビィ??」
手探りで電気をつけると、ソファーにビィを見つけた。
「なんだ。いるじゃないか・・ただいま、表で記者に見つかっちゃって巻くの大変だったよ・・・ビィ?」
話し掛けても反応がない。
おかしい・・・よく見ると力が抜けたようにぐったりと体をソファーにあずけていた。
「ビィ?ビィ!どうしたんだ!」
ビィを抱き起こし、体を点検した。
すると・・・・・電脳が・・機能停止してる。
「どうして・・・」
俺はビィをいつものベッドの上に運び、電脳をチェックした。
「そんな・・きゅうに・・何が原因なんだ・・」
必死に電脳を調べるが、原因は一向にわからない。
それどころが手が震えまともにネジを回すことすらできない。
ビィの開かない瞼の上に水滴が落ちる。
汗かと思いぬぐうと、また落ちる。
どうやら泣いているらしいことに気が付くまでしばらく時間がかかった。
「どうして・・・これからじゃないか。ビィ・・・返事してくれよ。なんでだよ・・・」
涙は止まることなく流れつづけ、ビィへと落ちる。
ビィを抱き起こし、抱きしめた。
俺にはそれしかすることができなかった。
「ロット。」
突然後ろから声をかけられた。
ガスだった。
「さっきはすまねぇ。ついカッとなっちまって・・・」
「ガス。」
振り返るといつもでっかいガスが小さく見えるほど、たよりない表情でたっていた。
「ビィもお前の大事な仲間だよな。それをあんなひどいこといってすまなかった。」
「ガス・・」
「ビィが来てからお前変わったよ。すごく生き生きしてた。」
「ガス・・・ビィが・・・」
ガスはなにも言わず封筒を差し出した。
「これ。」
聞き返すと、ガスは俺に封筒を渡しこう言った。
「ソファーの前の机に置いてあった。ビィからお前宛だ。」
俺宛?手紙?
ビィからと聞き、震える手で封筒を開けた。
すると手紙には、とても丁寧な文字でこう綴ってあった。
ロットへ
ごめんなさい、ロット。最初で最後、貴方の命令にはしたがえません・・・
許してください。私は貴方と一緒に行くことはできません。
なぜなら私はロボットだから。
貴方のために出来ることは限られています。
貴方はたくさんのことを私にしてくれました。
ゴミのように捨てられた私を拾い、直し、友達としてココへおいてくれました。
貴方が教えてくれてたくさんの感情。悲しい、うれしい、心配。
でも私はうれしくてもうまく笑うことは出来ない。悲しくても涙を流すことも出来ない。
貴方のため、この機械の中にうずまくものを表現するすべをもっていません。
貴方の夢をかなえられずごめんなさい。
本当の感情というものはわからないけど、貴方といられて私は幸せだったと思います。
貴方のために泣くことはできないけど、きっと私の心は貴方と離れるのを悲しいと泣いていると思う。
苦しいけどあったかい、こんな感情を教えてくれてありがとう。
この気持ちはなんというのか、それをロットに聞くことが出来ず残念です。
では、どうか貴方は貴方の夢を叶えてください。
私の夢は、貴方とともにあります。
ビィ
自分で電脳の機能を止めたっていうのか?
そんな・・出来るはずない。そんなプログラムないはず。
「なぁ、ガス。」
「なんだ。」
ガスの目を見て俺は言った。
「これでもビィにはココロがないっていうのか。電脳を自分で止めるなんてそんなことロボットにできるはずないじゃないか。」
「そうだな。」
ガスは目をそらさずこう言った。
「たしかにビィにはプログラムでは説明できない行動をたくさんしてきた。それをココロと呼ぶかはお前にかかってるんじゃないのか?」
「俺に?」
「そうだ!お前がこれから証明するんだよ。そしてロボットと人間が共存できる世界を作るんだ。もう二度とこんなことが起こらないように。ロボットを守るんだよ。」
ロボットを?守る?俺が。
「ビィの存在をみんなに証明してやれ。誰よりも優しいロボットがいたってことを伝えるんだ。」
もう一度ビィの方を向き、改めてビィの顔を見た。
とても穏やかで、優しい顔だった。
「そうだ。ビィは俺の夢を叶えてほしいと言った。夢とともにあると・・・ビィの死をムダにしないために。ビィを、ロボットを守るために。」
君にはやっぱり心があったんだよ。
誰も信じてはくれなかったけど。君の方がよっぽど優しい、純粋な心を・・今の俺たちが忘れてしまっている心をロボットの君がもっていたんだ。
それを俺が証明してみせる。
ポケットから、ビィのために買ったネックレスを取り出しビィの首へとまわした。
もうあの青い目が開くことはないけれど、その代わり綺麗な青い石がビィの胸で輝く。
「ビィ、必ず俺が君の存在を証明してみせる。そしていつか君が安心して暮らせる世界になったらまた一緒に暮らそう。
俺はその日がくるようにこれからがんばるから。それまでゆっくりおやすみ。」
俺の涙がビィの瞼に落ち、それままるでビィが泣いているかのようにみえた。
ココロってなんだと思う?
笑顔が作れるのがココロ?
涙が流せるのがココロ?
それじゃ
君の心にあるものは一体なんだというのだろう?
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2006/03/31
連載終了。
みなさま長い間お付き合いありがとうございました。