ココロ・ロボット




ココロってなんだと思う?

笑顔が作れるのがココロ?

涙が流せるのがココロ?

それじゃ

君の心にあるものは一体なんだというのだろう?





「こんな雪の日にガスもお使い頼むことないよな・・・まったく。」

ガスに頼まれた部品を抱え、俺は雪で真っ白になった道をさくさくと音を立てながら歩く。
靴は雪でぬれ冷たくなり、荷物を抱える手は寒さで感覚がなくなってきた。

「あー寒い。こんな日は誰も外を歩かないよな。人なんて誰一人歩いちゃいない・・・ん?」

辺りを見渡すとごみ置き場に黒い影を見つけた。
目を凝らしてみてみると、その輪郭は人間のようにだった。

「なんだ?」

なんとなくそこに向かって足が進んだ。
近づくにつれ輪郭がはっきりする。
短い茶色い髪、汚れた服、その服から伸びる長い手足。
そのごみ置き場には人ではなくロボットが一体捨てられていた。

そう今から20年ほど前、一体のお手伝いロボットが発売された。
それは爆発的なヒット商品となり、たくさんの会社がロボット研究を競うようにはじめた。
機能は日に日の向上し、炊事、洗濯、掃除、なんでもロボットがこなせるようになっていったのだ。
そして今、ロボットは家庭に一台あるようなそんな時代になった。
しかし、その反面。次々と新しいロボットが発売されていく裏でこうやって古いロボットが次々と廃棄されていく。
そうおもちゃのように。

そのロボットも手入れされていないのか錆びがひどく、よごれもめだっていた。
でも、それでもなぜか俺は引きつけられるものを感じた。

「まだ、新しい型なのにな・・どこか壊れているのかな??」

俺も見習いとはいえ、ロボット工場で働いている。
もしかしたら直せるかもしれない、そう思いそのロボットに触れようとした。
そのとき・・・突然ロボットの目が開き、話しだした。

「貴方は誰?」

俺は驚き、数歩後ろに身を引いた。
開いたロボットの瞳は蒼く、でもとても綺麗だった。

「驚いた。まだ電源は生きてるんだな」

思わず呟くと、そのロボットは俺の声に反応し話し出した。

「はい、内臓バッテリーがまだ残っています。あと16時間は稼動可能です。」
「そうか。最近のバッテリーはもちがいいもんな。」

なんて関心している場合じゃない。
まだ動くロボットが電源入ったまま、なんでごみ置き場にいるんだ?
俺は不思議に思いロボットに尋ねた。

「なんで君はここにいるんだい?」
「ご主人様にここに居ろと命じられました。明日になれば迎えがくるとのことです。」

迎えって??ふと視線を横にそらすとごみ置き場にあるプレートに「明日粗大ゴミの日」の文字を見つけた。
・・・こいつのご主人様ってやつはロボットをなんだと思ってるんだ。

「君、名前は?」
「ご主人さまが私を呼ぶときは おい おまえ などでした。」

あーもう最悪。こいつのご主人様。
絶対俺の嫌いなタイプだ。
このロボットをみているとなんだか俺まで悲しくなってきた。
まだ動いているロボットをごみ置き場に置き去りにするなんて俺には信じられない。
このロボットをこのまま置いておくわけにはいかず、とりあえずこのロボットを工場まで持っていくことにした。
工場まで持って行って直せばまだ使えるかもしれないし。

「・・とりあえず、俺と一緒にこないか?どこか壊れてるなら直してやるよ。で、新しいご主人様探してやるから。」
「私はココに居ろと命じられました。だから動くことは不可能です。」
「それじゃキミは明日には粗大ゴミになるんだよ。それでもいいのかい?」
「すべてはご主人様の仰せのままに・・」

このロボットのご主人ってほんとろくでもないやつだな・・しかたない・・
俺はロボットの首裏にある電源をOFFにする。
するとロボットはあっけなく機能を停止した。

「どうせゴミだったんだ、もらっていったって文句はないだろう。最新型なのにもったいないなぁ。」

なんて自分に言い訳しつつ、俺は持っていたお使いの部品を小脇にはさみロボットを持ち上げ肩で担いだ。

「おもっ。・・・家に着く前に俺がつぶれそう。」

さっきより幾分か深く雪の道に足跡をつけつつ、俺はガスの待つ店へと急いだ。



街外れにあるロボット修理工場。
ここが俺の家兼仕事場だ。ここで師匠のガスと二人で暮らしている。

「ただいま・・・っと。」

ドアを開け店にはいると、ガスは店の奥から出てきた。
この工場は手前側が店のスペースになっていて、奥が工場になっている。

「ロットお帰り。部品はあったか?・・・ってかおお前それどうした??」

ガスが俺の抱えているロボットを指差し、不思議そうに眺めた。

「おーガス。ただいま。ゴミ置き場で拾った。最新型だし、もったいないからもらってきた。」

そういうと、ガスはすこしうなずきそれから目を細めこう言った。

「こら!師匠って呼べっていってるだろ・・はぁ。しかし、そりゃめっけもんだな。」

ガスはロボットはまじまじと見つめ、腕の部品等をチェックした。
その目はやっぱり職人といった感じで俺は関心した。

「どれどれ・・・ほんとだ、最新も最新だな。みたことないパーツがつかわれているし。」
「だろ。なんかちょっと変わったロボットだったし。」

そういうと、ガスは細めた目を今度は見開き俺をにらんだ。

「また、心が・・とか言い出すんじゃないだろうな。いいか?ロボットに心なんてなぁ・・」
「はいはい、わかってます。存在しない、所詮すべてプログラムされた動きなんだ・・だろ?」
「わかってるならいい。」

俺の答えに満足したのか、俺が買ってきた部品をチェックするガス。
そんなガスに向かって俺は一言付け足した。

「でも、いつか作ってみせるよ。こころのあるロボットをさ。」
「それがお前の夢だもんな。まぁ、がんばれや。無謀だと思うけど。」

まったくと行っていいほど感情のこもらない声で返事を返すガス。でも「無謀」のところだけはしっかり感情入りだ。

「一言多いんだよ!しかしこのロボットほんと変わってるな。誰が捨てたんだろ?」

俺は店のスペースの片隅にある簡易ベットにロボットを寝かせ、ロボットの電脳をチェックした。
電脳とはロボットの一番核になる部分。人間でいう脳と言ったところだろう。
そのロボットの電脳はよくわからない配線やら、部品やらが組み込まれていた。
ガスも興味をがあるのか突然横から覗き込んだ。

「こりゃひどい。どっかのマニアがまた勝手に改造でもしたんだろ。お前が拾ってきたんだ。面倒みろよ。」
「わかってるって。」

俺は一通りのチェックをすませるとロボットの電源を入れた。
ロボットの目が開く。
蒼い目はやはりガラス球のように綺麗に光を反射していた。
その目が俺を捉えこう尋ねた。

「・・・・ここは?」

最初の時もそうだがこのロボットは自分から質問する。それに俺は驚いた。
普通ロボットというのはこちらから何らかのアクションを起こさなければ動かない。
このロボットの電脳は特殊な回路でも埋め込まれているんだろうか。
そんなことを考えながら、俺はそのロボットに向かって今の状況を説明した。

「ここは俺の家兼職場。これからお前のうち。」

しばしの沈黙のあと

「・・新しいご主人さまということですか?」

とロボット。さすがロボット理解力あるね。なんて当たり前のことに関心。

「まぁ、そういうこと。ちなみに前のお前の主人がつけてたプログラムは解除したから。」
「了解しました。新しいご主人様のお望みどうりに・・・」

はぁ、またそれか・・・

「あーもうそういうのやめね?俺嫌いなんだよ。」
「嫌い?」
「そう。俺はロボットを使用人としか認識してない今の時代が嫌いなんだよ。壊れたら次、飽きたら捨てる。おもちゃ感覚だ・・」
「私たちはご主人様が快適でより良い環境で生活するため存在しています。それ以上でも以下でもありません。」

そう言いきるロボットになぜかものすごく腹がたった。
人間が都合のいいように作って、使って、捨てる。
そんな時代が俺はすごく嫌いだ。

「だー!!だからそういうのが嫌いなんだよ。俺は近い未来ロボットはおもちゃなんかじゃなくて、友達として、家族として人間と同じように感情をもったものとして存在する世の中にするんだ。」
「感情?」
「感情・・・こころのあるロボットを作ろうと日々研究中なの。まぁ、それだけじゃ食っていけないから、こうやって師匠のところでロボットの修理も手伝ってるけどな」
「こころのあるロボット??」
「そう、人間と同じように泣いたり笑ったり。自分で考えたり出来る。そんなロボットさ。」
「笑う?泣く?・・」

ロボットは理解が出来ないのか俺の言葉を繰り返す。
でもその様子をみて、俺はなぜだかそのロボットが俺のことを理解しようとしているように見えた。

「ちょっと難しかったかな。まぁ、ようするにお前と友達になりたいってことだよ。」
「友達・・」

また言葉を繰り返す。

「そう友達。だからご主人様っていうのも禁止な。俺の名前はロット。」
「ロットさま?」
「さま・・・なんかかゆいわ。呼び捨てでいい。」
「ロット」
「そう。よくできました。そんでお前の名前は・・なかったんだったよな。」
「はい。」
「じゃぁ、ビィ。」
「ビィ・・」

また言葉を繰り返す。でも自分の名前を貰ったロボットは心なしか喜んでいるように見えた。

「そう、ビィ。お前の第二の人生ってことで。アルファベットの二文字めB。」
「わかりました。ロット。」
「んじゃ、まず壊れてるとこ直しますか。そこに寝て、ビィ。」
「了解しました。」

不思議なロボットだな。不思議なのは俺の感覚なのかもしれないけど。
俺はビィに他のロボットとは違う何かを感じたのだ。
再び簡易ベットに横になったビィのボディをざっと眺める。
とりあえず大きな故障はないようだったが、錆びで動きにくくなっているところや傷があった。
きっと前のご主人ってやつはビィを大切に扱っていなかったのだろう。
それが如実に現れているボディだった。
俺はそれをひとつひとつ丹念に直していった。










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2005/10/18


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