幸せなとき




しあわせなときほど
不安になる
貴方はいつまでそこにいて
一緒にわらってくれますか?





隣で眠る貴方の横で、私はいつまでも眠れずにひたすらにただ貴方の存在を感じていた。
貴方を感じるこの瞬間はいつも幸せで、でもとても切ない。
この幸せはいつまで続くのか、そんな漠然とした大きな闇が思考を支配する。
幸せは同時に不安も掻き立てるのだ。
明日になればまたべつべつの世界で生きていかなくてはいけないのだから。
いつもこの夜が永遠ならいいのになんてメルヘンチックな思考に落いる。
そんなこと無理なのは百も承知の上。もう夢をみられる年齢はとうの昔に終わったのだ。
思考がぐるぐるとループをはじめる。
こんな夜は眠れないことは、今までの経験で嫌というほどわかっている。
私はあきらめて貴方を起こさないようにそっとベットから抜け出した。

貴方の横にいればいるほど、この胸は苦しくなるばかりだから・・・

すこし頭を冷やそうと冷蔵庫の中から飲みかけのミネラルウオーターを取り出し、一口飲む。
その冷たさに、また眠気が一つ飛んでいったようなそんな気分になる。
近くにある雑誌をとり、手元のライトをつけパラパラとめくる。
サッカーが好きな貴方はよくこの雑誌を読んでいる。
私には、ルールすらよくわからないこのスポーツ。でも貴方とテレビをみて応援するのは好き。
貴方の少年のように無邪気な顔が見られるから。それもあとどのくらい見られるのだろう・・
思考がまたぐるぐるとループしはじめる。
この部屋には貴方のものが多すぎるように思う。
いつかそれが一つなくなり、二つなくなり。そしてなにもなくなっていくのだろう。そう遠くない未来に。
涙が一つ、こぼれた。
でも、それ以上でもそれ以下でもない感情。
もう、そんな起伏のある愛情ははるか昔に捨ててきてしまったのだ。
一つの愛に一喜一憂し、笑い、涙を流す。そんなことはもうないだろう。
少し悲しくもあるが、大人になるというのはそういうことなのだろう。

今日は寝るのはあきらめよう。そう決めた私はかばんに忍ばせていた本を取り出し読みはじめた。
これはいつも持ち歩いている詩集。
これを読んでいる間は、なんだか違う世界にいけるような気がする。
今日も思考の旅に出ようとしたそのとき、隣の部屋から貴方の声が聞こえた。

「起こしちゃった?ごめんね」

そう声をかけながら部屋をのぞくと、貴方はうつぶせのまま眠っていた。

「なんだ寝言か・・・」

そう思い部屋を後にしようとするとまた貴方がしゃべりだした。

「の・・」
「ん?なに?」
「・・・・・」
「やっぱり寝言か・・もう寝てても騒がしいんだから」

無防備に眠る貴方をちょっとにくらしく思いながらしばらく貴方を眺めてた。
すると、貴方の左手が何かを探すように布団をさまよっていることに気づいた。
なんの夢をみているんだろう?なにをさがしているんだろう?そう思いながらみつめているとむくりと貴方が目を覚ました。

「・・・・」
「おはよう。っていってもまだ夜だけど。ごめん、起こした?」

そう尋ねると、貴方は一言

「布団がつめたい・・・」

そういってまた目を閉じた。
なんだ、あの手は私を探していたんだ。でももうちょっとなんかいい方あるんじゃない?布団が冷たいって・・
貴方らしくて笑えてきた。思いを言葉にするのがちょっと苦手な貴方。
でも、私が欲しい言葉はちゃんとくれるのね。
今日だって、その一言で私は貴方の横で眠ることが出来そう。
私がいつも寝るベットの右側は貴方の言うとおり少し冷たくなっていた。
布団にはいるとするりと貴方の腕が私の身体を包み、心も身体もあったかくなった。





幸せなときほど
不安になる
貴方はいつまでそこにいて
私を包んでくれますか?






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2005/09/09




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