空を切る手




ずるいよね
そうやっていつもはぐらかす
私の気持ちわかってるくせに・・・





いつものメンバーといつもの店でいつものように飲み会。
いつもの定位置にいる貴方。
それを見つめる私。
ほんとにいつもと変わらない風景。
その日いつもと違うことをしたのは貴方。

「ほんと、あの教授最悪だよ。ホントに読んでるのかな、私の論文」
「いや、読んでないよ。だって返ってきたレポート誤字だらけなのにスルーだったもん」
「まじ?ほんと最悪。人が一生懸命かいてんのに、ねぇ」
「ほんとほんと、あっ!マッキーのとこはどうなん?」

ドキッとした、今親友の実夏が呼びかけた「マッキー」こそ私の片思いの相手。
もちろん彼女は私が「マッキー」を好きなことを知っている。
こいつ・・わざとだな。

「ん??ゼミ?うちは赤ペン先生のごとくすごい訂正されてかえってるくよ。それもへこむわ・・」
「そっか、それもそれでイヤだね。ほんと卒論めんどくさいわ。」
「だよな、実夏ってさ題なに?」
「あー箱庭療法についてだよ。一応心理だし。」
「そっか、なんか頭よさそうだよな。心理って。」
「そうじゃないのわかってるくせに。」
「・・・そうだな」

なんて、くだらない会話を目の前で繰り広げる二人。
せっかく実夏が気を使ってくれたのにやっぱり会話に入れない私。疎外感・・・

「でも、有香は頭いいじゃん」

二人の会話をぼんやり聞き流してたら、突然私の名前が彼の口から飛び出した。

「へっ??なに?」
「そんな、びっくりしなくても。有香は卒論上手くいってるんだろ?」
「あぁ・・まぁ実夏よりは。」
「ちょっと!ひどくない?それは」
「あぁ、ごめんごめん」

こうして、貴方の一言でいつもは入れない貴方と実夏の会話に参加した私。
貴方は何気なく声をかけたのかもしれないけど、私はそれだけでうかれてしまったの。

そして、帰り道。

「今日は私、澪のとこ泊まるから!」
「えっ??ちょっと実夏」
「マッキー、有香を駅まで送ってあげてよ。夜道は物騒だしね。」
「おーわかった。」
「じゃあ、有香。また明日ね。行こう!澪。」

そう言い残し実夏は澪と一緒に帰ってしまった。ウインクを一つ残して。
もう、ほんとおせっかい。
取り残された私と貴方。

「さて、帰るか?」
「・・・うん。」

変な空気が流れる。そう、だって二人っきりなんてなったことない。
なのに今日は二人で駅までの道を歩く。
それだけなのにドキドキする。

「お酒、結構のめるんだね」
「へっ??あぁ・・まぁまぁ・・」

だめだ・・緊張して言葉が出ない。

必死に言葉をさがしていると、急に後ろから自転車がすごいスピードでつっこんできた。

「きゃっ」
「危ない!」

自転車はチリチリとベルを鳴らし、走りぬけていった。
残される私たち、のばされた腕にとっさにすがってしまった姿の私。守るようにまわされた腕。
私の心臓は壊れそうなほど、振動を繰り返す。

「・・・・」
「・・・・」

無言の貴方。なにも言えない私。
そのまま永遠にも思える数秒がすぎ、貴方は私の身体を離した。
その瞬間視線が絡まった。貴方と私の視線。今私はどんな顔してるんだろう。
きっと赤い顔。貴方を好きですっておでこに書いてあるかもしれない。
しばらくの沈黙のあと無言のまま駅までの道をずんずんと歩く貴方。
気づいてしまったの?私の気持ちに?
そのまま駅の改札にまで来てしまった。

「それじゃまた」

沈黙のに耐え切れず、私から別れを切り出す。
ほんとは離れたくなんかないのに。

「・・・・」

まだ無言の貴方。
痺れをきらし、帰ろうとした瞬間・・・手を取られた。

「なに?」

私の言葉は緊張のあまりとても冷たく響いた。
私の眼を見つめる貴方、その目は真実を見透かしているかのように深く澄んでいた。

「・・・・・」
「・・・・・」

息がつまりそうに重く長い沈黙のあと貴方は

「やっぱりなんでもない」

そう言い残し去っていった。
残された私は一人貴方の手の感覚が消えない右腕をどうすることもできずにいた。
期待した自分が馬鹿みたい。悲しくなって世界が滲んだ。





ずるいよね。
きっと貴方は気づいている 私の気持ちに
答えられないからって気づかない振りするなんて
一番あきらめがつかないじゃない?






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2005/08/23



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