帰り道


同じ方向の電車に乗るのに

貴方の方が先に下りるの

いつも残されるその感覚が嫌い






デートの帰り道、いつも乗る電車に貴方と乗る。
発車する電車、黙りこくる私。
今日はたのしかったね、また行こうね・・・そんなありきたりな話をする貴方。
その間も刻一刻と別れの瞬間は近づいてくる。
急におとなしくなる私に不思議そうな顔をする貴方。ほんとなんにもわかってない・・・

「貴方と別れるのが寂しいの、次いつ逢えるの?」

そんな言葉が喉もとを通り抜けると、ため息に変わる。
黙りこくる私に一生懸命今日の楽しさを伝えようとする貴方。
今日が楽しかったと貴方が話すたび、比例して別れも悲しくなるの。

そして、まっくらな闇に明るい建物が見えはじめる。
それを過ぎればもうすぐ貴方が降りる駅。
私はたまらなく悲しくなり、貴方の手を強く握った。
貴方も条件反射で握り返してはくれるけど、私が欲しいのはそんなことじゃない。

そして、電車は駅に到着する。
貴方は、なんのためらいもなく言う。


「さようなら」


その言葉がどれだけ悲しい言葉なのか知りもしないで、平気な顔で笑顔を浮かべる。
私は、悲しくて、寂しくて、苦しくて、眼もあわすことができないのに・・貴方は言う。

「ちゃんと眼をみてさよならいって」

必死で笑顔作って、必死で貴方の眼のちょっと上に焦点を合わせて、声が震えないように言う。


「またね。」


それに満足したのか貴方は降りていくの。一度も振り返らないで・・・
そして電車は動き出すの。
私を乗せて。貴方を置いて。




貴方が降りたこの電車は

確実に

貴方の気配をけしていくの

私の手の中からも






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2005/07/07



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