幸せな笑顔

君が幸せそうに笑う

それだけで

僕は君を守りたいと思うんだ






久しぶりの二人揃っての休みの日。
映画館で上映してた時、見に行こうと言っていたのに結局行けずじまいだったものがレンタル開始になったので僕の部屋で見る約束をしていた。

レンタル屋の袋をさげて、君が僕の部屋へとやってきた。

「暑い、暑すぎる。」

君はそう言うと、自分の鞄やら、買ってきたおやつやらをどさどさと下ろす。

「いらっしゃい、お疲れ様。」

僕がそう声をかけると

「来るだけで疲れるってどうよ!」

と、なんだか怒り気味の君。
よっぽど外が暑かったんだろう、あまり汗をかかないはずの肌が少し汗ばんでいた。
僕は、クーラーのかかった部屋で待っていたわけで・・・
少し申し訳なくなり、立ち上がって君の頭をなでた。
君は、驚いた顔で僕を見上げる。

「急になに?」

ぶっちょうずらで尋ねる。
でも、僕は知ってるんだ。こういう時の君のぶっちょうずらは照れ隠しだって。

「いや、感謝の気持ち?」

そんな君が可愛くて、つい疑問形で僕も照れ隠し。

「そう、暑い中買い物してきたんだからねー」
「だよね、ありがと。すぐ映画見る?」

僕が尋ねると、君は僕を見上げ一言

「うん、でもその前に…」

といって、背伸びをして僕の唇に指で触れる。

「ご褒美ちょうだい?」

首をかしげて、甘えるように見つめる。
僕は、ご希望どおり軽く君の唇にキスをする。
唇が触れる瞬間、君はそっと目を閉じる。
君には内緒だけれどもその一瞬が僕は好きで、いつも見逃さないようにしている。

「よし、じゃあ映画みよ。」

そういって君は僕から離れ、置いたままにしていた袋の中からおかしやら飲み物やらを取り出し並べる。
一度もこっちを見ないところをみると、きっと照れているのだろう。
でも、照れてることを指摘すると君は照れ隠しにまたぶっちょうずらで怒ったふりをするのだろう。
それも可愛いのだけれど、今日は知らんぷりをしてあげることにする。

「ちょっとは手伝ってよ。」

君の声で我に返り、僕も袋からDVDを取り出し再生の準備に取り掛かる。

お菓子も再生の準備も整い、君は僕の横にすとんと座る。
いつも僕の左側。そしてお決まりの一言。

「手」

君の右手が、僕の左手を待ち構えている。
僕はその右手に左手をからめる。
すると君は満足げに微笑む。
それを見届けて、僕は再生のボタンを押す。

映画が始まり、そこからはしばらく無言。
でも、手はずっとつながれたまま。
君がびっくりすると、君の手はきゅっと僕の手をつかみ。
君が泣くと、君の手は僕の手をぎゅっと握る。
言葉はないけど、君の手は君の気持を伝えてくれる。

でも、今日はつながれた手がなんとなく素っ気ない。
映画が中盤にさしかかったころ、気になって君の様子をうかがってみると、君の目は閉じられどうやら寝てしまっているようだった。
この映画見たいっていったのは君なんだけど?
そう文句もつけたくなったけど、最近忙しそうにしていた君を思い出して仕方がないと思いなおした。
よくみると、目の下にはクマが。
化粧でかくしてきたのだろうけど、よくみるとうっすらと疲れたような跡が見える。
君が眠りやすいように、僕は少し体勢を変える。
すると、すとんと君の頭が僕の肩へと寄りかかる。
僕がよしよしと頭を撫でると、うっすらと目をあける君。

「ごめん。起こした?」

僕は覗き込んで君を見つめる。
ぼんやりと視線を泳がせる君。
僕と目が合うと、ふんわりと幸せそうに笑って、そしてまた目を閉じた。
その笑みが、なんとも可愛くて僕は思わず君の頬に触れた。
すると君はまた目を開けて、僕の手をしっかりとにぎって、またふにゃっと笑う。
安心しきった君の姿は、なんとも無防備で、こんなにも信頼されているのだと思うと、うれしくもある。
君を守るのはこの僕なのだと、この瞬間に感じた。





君が幸せそうに笑う

それだけで

僕は満たされた気持になるんだ



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2008/07/28


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