消える、消える


帰り道

一歩一歩がお別れへのカウントダウン

さよなら さよなら

靴音がひびく






カツン、カツン。
靴音を鳴らして帰る、帰り道。
あなたと手を繋いで帰る、帰り道。

少し肌寒く感じる風すら、あの人の温度を感じるために効果的に思う。
その大きな手から伝わる温度が優しい。

ずずっと鼻をすする音。
タバコの香りがする服。
あなたを作り出す要素がすべて愛しい。
帰り道、あと数分しか同じ空間にいられないのでめいいっぱいあなたを感じようと私は必死だ。

「今日は寒いな。」

あなたが言う。

「ほんと寒い。」

私は答え、繋いだ手をぎゅっと握る。
するとあなたはきゅっと握り返してくれる。
そんな些細なことで、私は泣き出しそうになる。
そんな私をみて

「そんな顔するなよ。」

と、あなたはいう。

「そんな顔ってどんな顔よ。」

私はきっと泣き出しそうな顔で、口をへのじに結んでいると知っていながら強がりを言う。

お別れの地点にたどり着くと、あなたは残酷なまでに潔く、繋いでいた手を離す。
その瞬間私はまた泣き出しそうになる。
そんな顔みられたくないので、前へかけだし後ろを見ずに

「またね。」

と、私は言う。

「おう。気をつけて。」

あなたはそういうとくるりと振り返り来た道を戻る。
私はそんなあなたを全身で感じながら、ゆっくりと前へと進む。
あなたの気配がだんだん遠くなる。
身体の一部が持っていかれるみたいに悲しくなる。

そのとき、風が吹いた。

すると、私の髪からあの人の匂いがした。
とたんに、涙が溢れた。
身にまとうあの人の匂いだけが、ここに私がたしかに存在しているという証のように思えた。
まるで透明人間にでもなったかのように心細くなった。

髪を嗅いだ。
指を嗅いだ。
服を嗅いだ。

すべてからあの人の匂いがして、涙が止まらなくなった。






帰り道

一歩一歩がお別れへのカウントダウン

さみしい さみしい

靴音がひびく





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2007/10/28



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