×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

素直じゃない私、素直な感情


あなたがあまりにも

やさしく

やさしく

私に触れるものだから

私はいつも泣いてしまうの





見慣れた道を、カツカツ音を鳴らして歩く。
バイト終わりだけれど、あの人に会うために履いたパンプスのかかとをカツカツと鳴らして。
バイトはスニーカーで働くし、スニーカーのほうが歩きやすくて好きなのだけれど。
あの人はこの「カツカツ」という音が好きだという。
だから今日も私はカツカツと音を鳴らして、あの人の家へと向かう。

あの人の家は、駅から少し遠い。
行きはいつも遠く感じる、一人で歩く道。
ただ、もくもくと歩く。
帰りはいつも近く感じる、二人で歩く道。
ゆっくり、あの人と二人歩く。

あの人の住むマンションに着くと、合鍵を取り出してドアを開ける。
そのたびちょっとくすぐったい気持ちがする。
扉を開けると、とたんにあの人の香りがする。
それだけでちょっと顔がにやけてしまう。
そして、小さな声で

「ただいま。」

と呟く。
誰もいないけど、「お邪魔します。」っていうとあの人は少し寂しそうな顔をするから練習。
そして、あの人が帰ってくるまで部屋で料理をして待つ。
と、言ってもそんなにこったものは作れないのでせいぜい材料をきって、煮込むか、炒めるか。


そうこうしてる間にあの人は帰ってくる。
ちょっと、照れくさそうな顔でドアを開けて

「ただいま。」

って言う。
また胸がくすぐったくなる。
顔がにやける。
恥ずかしくって、顔もろくに見ずに「おかえり。」と私はいう。

二人がそろったらご飯を食べる。
あの人はいつもとてもおいしそうにご飯を食べる。
そして、かならず「おいしいよ。」って言ってくれる。
また、胸がくすぐったくなる。
どう答えていいか分からず、ぶっきらぼうに「そう、よかった。」と私はいう。

食器の後片付けは、あの人がしてくれる。
ギブアンドテイクなんだとか。
変なトコ律儀だなぁ、と思いながらテレビを見る。
だけど神経は水の音ばかりを気にしていて、一人は寂しいので早く戻ってきて欲しいなんて思ったりする。
でも、そんな自分は馬鹿だなぁと思う。
だからおとなしく待つ。テレビをみてるフリをして。

水の音が止まり、あの人が部屋に戻ってくる。
だけど、私はテレビに夢中なフリをする。

「終わったよ。」

って言われても、素っ気無く「そう。」と私はいう。

あの人は私の隣に座って

「面白い?」

と聞く。テレビから目線をはずさず「別に。」と私はいう。
しばらくの沈黙。
ちらっと横を見ると、テレビに夢中な様子。
くやしくて、横にある手をキュっと握るとやっとこっちを向いて笑う。
そしてテレビを消して、私の頬に髪に触れる。

そこでいつも、また負けたって思う。
あの人は私が甘えるのを待っているのだから。

大切に大切に、あの人は私を撫でる。
あの人の手が優しければ優しいほど、私は胸が痛くなる。
この手を失っても、私は生きて行けるのだろうか。
ちっとも素直じゃない私を優しく包んでくれるこの手を。
幸せなのに不安になる。
そして涙がこぼれる。
その涙も、やさしくやさしく、ぬぐってくれる。
大丈夫だよ。といってやさしくやさしくぬぐってくれる。
その瞬間はとても幸せ、たとえ次の瞬間その手を失うとしても。
この瞬間は幸せ。そう思うことにする。


そして、暗い夜道を二人で駅まで歩く。
カツカツと音を鳴らして。

「カツカツって音、好きだな。」

ってあの人はいう。「そう。」と私は答える。

あなたのために履いてるのよ。
そういえない私はやっぱり素直じゃなかった。





あなたがあまりにも

強く

強く

私を抱くものだから

私はいつも胸が痛くなるの





* * * * * * * * * * * * *

2007/10/16



←詩的散文に戻る