伝えない思い


悲しい

悲しい

心が泣くの




いつものように、仲間との食事の席。
貴方の横で幸せをかみしめていたのに。
急に貴方はとんでもないことを言い出した。

「どうなん、あの人とは。」

「あの人」とは、私と彼の共通の友人。
彼と三人でよく遊びに行ったりする、とても仲のいい友人。
どうなん?とはどういうことなんだろう?
私が質問の意図を汲み取れずだまっていると。

「うまくいってないん?」

ますますわからない、友人関係としてならいままで通りいい関係を続けている。
でも、この聞き方は…

「仲良くやってる?」

「…どういう意味?」

「いや、最近仲いいやん。だから、なんか進展あったかなと。」

たしかに、二人で飲みには行った。
相談ごとがあったから。でも、それだけ。
本当にただの友人。

「進展なんか、あるわけないやん。」

私がそういうと、貴方はからかうようにこう続けた。

「なんでないん?いい人やろ。」

いい人だ。たしかにあの人は、私の愚痴につきあってくれるし。
でも、そういう感情は微塵もない。なのに。

「いや、ないっていってるやん。あの人とはそういうんはない。」

私はそう言いきるのに、

「そんな、否定せんでいいやん。仲良くしてその結果、友達から恋人っていうのもありやろ。」

なんて、おちゃらけて返してくる。
だんだんと心が重く、悲しくなってくる。

「あの人だってそんな気ないって。ただのいい友達やと思ってるて。」

また、否定したのに、

「そんなことないで、あの人お前には甘いもん。絶対進展はありえる。」

なんて言ってくる。
私は悲しくて、だんだんと無口になる。
喋ると、泣き出してしまいそうだった。

「黙るってことは、お前もまんざらじゃないんちゃうん。俺、二人のこと応援するから。」

なんて、追い討ちをかけるように貴方は続ける。

「ないって、言ってるのに。」

私が、なんとか呟くと、

「そうか、残念。」

なんて、軽い答え。
もう、私は今すぐここから逃げ出したくて「お手洗い」なんていって席を立った。
私が抜けた席に違う友人が移動するのが目の端に写り、貴方と友人の話す声を背中で聞いた。

そして、トイレで一人涙と一緒に大きなため息を吐き出す。
思いを乗せて。

どうして、よりによって貴方がそんなこと言うの。
どうして、あの人と私をくっつけようとするの。

私が好きなのはあの人じゃない。
貴方だって。
どうして、伝わらないの?

それとも、もう貴方にはバレていて。
その上でそんなこと言ってくるの?

そうだとしたら、ひどい。
残酷だ。
面と向かっては言えないからって、こんなカタチで私に伝えようとするなんて。

私はトイレのドアをしめ、内側の扉にもたれかかりながら必死に涙をこらえた。





切ない

切ない

心が鳴くの





* * * * * * * * * * * * *

2007/03/23



←詩的散文に戻る