×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

するり、ふわり




触れようとすると

するり

逃げてゆく

離れようとすると

ひらり

そばに舞い降りる

君は僕になにを求めているの?






いつも仲間といるときは、そんなそぶりみせないくせに。
ふとした瞬間二人っきりになると、君は決まって思わせぶりなことをいう。


「今度の休みなにしてるの?」

「今度の休み?そうだな、部屋が荒れてるし掃除かな。」


僕はなるべく不自然じゃないように、休みは予定はないことを君に伝える。


「そう。私みたい映画があるんだけど。」

「なに?」


そう聞くと君は今流行っている洋画のタイトルを口にした。


「それなら僕も見たいと思ってたんだ。」

「じゃあ、丁度良かった。一緒に行こうよ。」

「うん。」


普通はここでデートの約束を取り付けたことになるだろう。
でも決まって君はこの後こう続ける。


「で、あと誰を誘う?」


僕は仲間内でその映画を観たいと口にしていた彼の名前を告げる。


「そう、じゃあ聞いてみてくれる?」

「わかった。」


僕が誘った彼が来るといえば三人での映画となる。
彼が予定が会わないといえば、僕と彼女二人のデートとなる。

過去、このケースで二人のデートになったのが三回。
他の人を含めた遊びとなったのがニ回。
今回は前者のケースになった。
しかし、ここで疑問。
彼女はなぜ二人っきりの時に僕を誘うのだろう。

僕と二人っきりでいたいからだろうか?

でもそうならなぜ他の人を誘おうなどというのだろう。

僕と二人っきりは嫌なのだろうか?

この謎は解けないままデートの日となる。
その日はあいにくの雨。
君はブルーの綺麗な色の傘をさして待ち合わせの場所へやってきた。


「待った?ごめん。」


そういった君は、傘をたたみ僕に寄り添う。
その距離は明らかに仲間といるときのものとは違う。
触れそうで触れない距離。


「いや。そんなことないよ。」


うわずりそうな声を押え、僕はそう伝える。


「そう、ならよかった。じゃ、行こう。」


君はミュールの踵をカツカツならし僕の前を歩く。
僕はその後をすこし遅れて歩く。

話題の作品だけあって、開始時刻30分前で空いている席はわずかだった。
窓口でチケットを買うとき、君は決まって財布を取り出し自分の分を払う。
最初の頃、デートなのだからと僕が払うといったのだけれども断られた。


「私、そんなためにきたんじゃないから。」


じゃあ、なんのつもりなの?
喉元まで出かかった言葉が空気を震わせることはなかった。

映画の開始時刻まで、近くの喫茶店で時間をつぶす。
その間もたいてい喋っているのは僕だ。
くだらない仲間の失敗談や、最近読んだ本の話。
君はとりわけ楽しそうでもなく、でもつまらないわけでもない。
そんな表情で話を聞く。
そのうち君が時計を眺めて


「そろそろね。」


と、言う。
それを合図に喫茶店を後にし、映画館へ向かう。

映画の最中はもちろん会話もなく、ただただ映画をみる。
僕は映画を見る君の横顔を盗み見る。
スクリーンの明かりに照らされたその横顔はとても綺麗。
青白い光が君の肌に反射し、思わずみとれてしまう。
隣の君が気になって映画どころじゃない僕。
そんな僕に構うことなく、スクリーンから視線をはずさない君。
二人の距離を如実に感じるひと時だ。
そしてスクリーンにエンドロールが流れる。
君はエンドロールが終わり、会場の明かりがつくまで席を離れない。
それにしたがって僕もじっと明かりがつくのを待つ。
この時も僕たちには会話はない。
明かりがつき、君が立ち上がる。
それにあわせて僕もあわてて立ち上がる。

「まぁまぁだったね。」

君が言う。

「そうだね。」

僕は内容なんて覚えていないのに適当な相槌を打つ。
そんな僕を見透かしているように、それ以上映画の話は続かない。
映画館を出てしまうと、僕はいつも困ってしまう。

君との約束は「映画を観にいくこと」

それが終わってしまうとなにもすることがなくなってしまうのだ。
僕が困ったように君を見つめると、君は

「今日は付き合ってくれてありがとう。じゃあ。」

と、あっさり帰ってしまう。
一度「ご飯でも。」と誘ってみたが、「お腹すいてないから。」と断られ。
一度「お茶でも。」と誘ってみたが、「さっき飲んだし。」と断られた。
僕はそれ以上の誘う言葉を持ち合わせていなかった。
ボキャブラリーのなさに情けなくなるばかりだ。
後ろ姿の君はやっぱり凛々しくて、残る僕はなんとも情けない。

結局僕の手の中には映画の半券が残り、それがもう5枚目にもなる。
このデートとすら呼べない時間を君はどうとらえているのだろう。
僕といえば、言えない君への重いがつもりつもって喉を胸を突き破りそうになるばかりなのに。






離れないようとすると

するり

逃げてゆく

触れようとすると

ふわり

そばに舞い降りる

僕は君になにを求めているの






* * * * * * * * * * * * *

2006/07/31




←詩的散文に戻る