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優しい味



ポケットの中で

カラカラとなるラムネ

その音で忘れていた何かを思い出した





「もう、帰る!」

私はそうあなたに告げ、背中を向けた。

”一緒に映画を観よう”
”一緒に買い物にいこう”
”一緒にご飯を食べよう”

私はたくさんの約束をあなたとする。
あなたとたくさんの約束をするのは、あなたと時間を記憶を幸せを共有したいとそう思うから。

「たがが一つ約束を忘れただけじゃないか。」

あなたはそういうの。
そうあなたにとってはその程度のこと。
その「約束」その言葉の重さは、私とあなたでは違うような気がする。
たかが一つ・・・その中の一つ一つには私のたくさんの思いが詰まっているのに。
たしかにそんなことで怒る私の心が狭いのかもしれない。
でもそれをどれだけ私が楽しみに待っていたのか、あなたは少しでも考えたことがあるのだろうか。
わかって欲しいことがこんなにたくさんあるのに、言葉にするとそれはまるでおもちゃのピアノのような軽い音で響く。

「ちょっと待てよ。」

あなたの声を背中に聞きながら私は歩きつづける。
どんどんあなたから離れていく。
寒い夜空を一人歩くと、身体だけではなく心まで冷やしていくようだった。
そんな中もただひたすら振り返ることなく、ただもくもくと歩きつづける。
カツカツとブーツのかかとを鳴らして。
その音さえも私の気持ちを代弁しているかのように固く、重く響いた。

でも、どこかで信じてるの。
あなたが追いかけてきてくれることを。

路地の角を曲がり、そこで足を止める。
息をひそめてあなたの足音を待つ・・・でも聞こえない。
とたんにとても不安になる。自分が帰るといったくせに。
もう二度と会えないようなそんな気がして、私はぎゅっと眼を閉じて耳をすます。
ただひたすらにあなたの足音を待つ。
冷たい空気が身体を徐々に冷やしていく。
私はたまらずポケットに手を入れた。

カラカラ

ポケットに手をいれた拍子になにかが音を立てた。
それはなんだかとても懐かしい音。
私はもう一度ポケットに手を入れた。

カラカラカラ

乾いた空気に優しい音。
ポケットから取り出すと青く透明な入れ物にまるいラムネが入っていた。
それはあなたが私のために買ってくれたラムネ。
私は昔からそのラムネが好きだった。
そのことを告げてから、あなたはことあるごとにそのラムネを買ってくれる。
デート中ふらりと入ったコンビニで。
街中で見つけた駄菓子屋で。
見つけるとあなたの手がラムネをつかみ、カゴの中へ。
そしてそのあと必ず私の手の中へ。
それがあなたなりの優しさだと、私は気づいていた。

飲み物のラムネをかたどった入れ物に入っているそれはほかのどれとも違う独特の味がする。
蓋をあけ、一粒口に含む。
それは昔と変わらない優しい味がした。

カラカラカラカラ

一つ出してはまた口に含む。
一粒食べることに、その味のように優しくなれるように。
一粒食べるごとに、子供の頃のように素直になれるように。
また一つだしては口に含む。

カラ

最後の一つが手の中へとこぼれ落ちる。
それを舌に乗せ、口の中で溶かす。
優しくなれますように。
素直になれますように。
最後のラムネが口の中で溶けたそのとき、あなたの足跡が聞こえた。

「・・・・」
「・・・・」

二人見つめあう。
冬の冷たい空気が二人の間を漂う。
あなたはなんていっていいのかわからず言葉をさがしているよう。

「なくなった。」

私は握っていたラムネの容器をあなたに見えるように差し出した。

「おう。また買いに行かないとな。」

容器を見つめ呟くあなたは、私が喋ったのでちょっとほっとした表情をうかべた。

「そのときメモ帳も買おう。」

私がそういうと、あなたが不思議そうに首をかしげた。

「約束。忘れないようにそれに書いておけばいいでしょ?」
「あぁ。そっか。そうだな。」

忘れるほど約束してしまうなら、ちゃんとメモっておけばいい。
もちろんそれはあなたの役目だけれど。
そうやって約束を一つづ大切にあなたと果たしていきたい。
小さいことから大きいことまで。

「ほんとごめんな。」

あなたが私の手を握りすまなそうに呟く。

「いいよ。わたしこそ細かくてごめん。」
「それはいまさらだろ。」

そういって突然私をぎゅっと抱きしめる。
あなたの腕の中はとっても暖かくて、私はおもわずその胸に頬をすりよせた。





ポケットの中で

カラカラとなるラムネ

その味は優しい味がした





* * * * * * * * * * * * *

2005/11/15


1000番のキリリクの品です。
「LIEBE」の旭央さまより「切ない系で甘い系」でリクエストいただきました。
切ないんだか甘いんだかよくわからないものになってしまいました(汗)
気に入っていただけるとよいのですが・・・

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